信州・上田の小さな庭から|石森良三商店が紡ぐ季節の暮らし

– 山野草と暮らす、古民家から始まる庭づくりの物語 –
第一章:春、植物が目を覚ます頃に
– 小さな庭づくりは、ゆっくりと始まりました –
長野の冬は、厳しくて長い。
けれど、だからこそ春の気配には敏感になります。
土がゆるみ、日が長くなって、空気がほんのり柔らかくなる。そうして少しずつ、庭の植物たちがむくむくと目を覚まし始めます。
石森良三商店は、長野県上田市にある古民家を再生した店舗です。そのお店に、小さな庭が出来たのが昨年のこと。もともと中庭だったところを整備して、およそ三帖ほどの小さな空間です。
古くから残る黒松と南天の木はそのままに。建物を設計してくださったのは、古民家再生で有名な降旗先生。だからこそ、この場所には山野草や椿、イロハモミジなど、日本の季節を映す植物が似合うと感じていました。
もともと植物が好きな私が担当を任せていただきました。
一年目である昨年はイロハモミジや2種類の椿(秋華と初音)、そして小さな山野草をいくつか植えていきました。そして迎えたこの春、椿が小さな花を咲かせました。
昨年植えた山野草も、ひとつまたひとつと芽を出し始めています。
「ちゃんと冬を越してくれたんだな」と、心からほっとしました。



第二章:花と器を手に、季節を活ける時間
– 「なげいれ」の教えが庭づくりにもつながっています –
石森良三商店では、店内に季節の花を飾ることも大切にしています。
その学びの場として、伊那市にお住まいの花人・唐木さち先生のお稽古に通うようになりました。
唐木先生の教室は、「投げ入れ」と呼ばれる、器と花の自然な関係を大切にしたスタイル。
華道のように型にはまるのではなく、その日、その瞬間の感性で、器と対話しながら花を活けるのです。
お稽古では、自分で器を選び、前日までに花を用意します。
近くの山に行って草花を摘んだり、庭から小さな蕾をいただいたり。
お稽古当日は、自分の手で花を活け、先生に見ていただきます。
驚くのは、同じ花材でも、先生が手を加えるだけで空気が変わること。
先生の活けたお花を見るたびに毎回息が止まるほど感動しています。
先生曰く「花は野にあるときがいちばん美しい。でも切ってこそ表現できる世界もあるのよ」。
先生から勉強させていただいたことを活かすべく、日々勉強中です。



第三章:お迎えする庭、積み重ねる季節
– 四季折々の“おもてなし”を庭からはじめたい –
石森良三商店の庭づくりは始まったばかり。
未完成だからこそ、季節ごとの変化がいっそう愛おしく感じられます。
「今年は何を植えよう?」
「この山野草は夏越しできるかな?」
「花のあと、実がつく種類にしてみようか」
そんな風に、毎年少しずつ庭に手を加えることで、四季の巡りを感じる場所が出来上がっていくのだと思います。
椿は成長がゆっくりなので、早めに植えました。
イロハモミジは、真夏には涼やかな木陰をつくってくれるはずです。
夏にはホタルブクロやキョウカノコ、秋にはシュウメイギク。
冬は常緑の南天と、紅い実が静かに庭を彩ってくれます。
庭で摘んだ草花を、花器にすっと活けてお店に飾る。
その一輪が、お客様とのさりげない会話のきっかけになったりもします。
庭はまだまだ未完成です。
春の植え付けを考えながら、夏を想い、秋の実りを楽しみにする。
四季を一歩先に感じるこの時間は、なにより豊かです。
お店の入口として、小さな庭がそっと寄り添ってくれるような——
そんな場所を目指して、今年の庭仕事も始めています。





